今回は、マンボウの研究をされている特別研究員の澤井悦郎さんにお話を伺いました。子どもの頃からマンボウが好きだったという澤井さんに、研究の内容とマンボウの魅力についてお話していただきました。
広島大学 特別研究員
澤井 悦郎 さん
専門分野:魚類分類学・生態学
履歴:
2007年 近畿大学農学部水産学科卒業
2009年 広島大学大学院生物圏科学研究科 博士課程前期修了 修士(農学)
2015年9月 広島大学大学院生物圏科学研究科 博士課程後期修了 博士(農学)
2015年10月 広島大学特別研究員(グローバルキャリアデザインセンター)
マンボウはフグの仲間で、大きいものだと全長3m以上、体重は2tにもなります。世界中の熱帯や温帯の海域に生息しており、日本近海でも漁獲されています。マンボウは特徴的な風貌からキャラクターとしては有名ですが、まだ明らかにされていない部分が多くあります。例えば、マンボウの種類、年齢の判定方法、何を主食とするのかといった、他の種類の魚では明らかになっていることが分かっていません。
DNA解析から系統樹を作成し、集団が分かれたものに対しては、実際に標本を調べ、形態的な面からも種の違いを明らかにしていく中で、日本で1種と思われていたマンボウが実は2種が混同されていたことが分かりました。実際、「マンボウ」は頭部が平らであり、体の後半のひれ(舵鰭)は波打ったような形をしているのに対し、「ウシマンボウ」(2010年に名付けられた)は隆起した頭部と、丸みを帯びた舵鰭が特徴です。
どの地域にどんなマンボウが出現するかを調べる中で、東京大学の研究施設がある岩手県に6月から11月までの約半年間滞在し、海水温とマンボウの種類の関係についてデータをとり、分析を行いました。その結果、「マンボウ」と「ウシマンボウ」では出現する水温が異なることが明らかになりました。2m以上の大型個体に限れば、「マンボウ」は6~7月、「ウシマンボウ」は8月に最も多く出現する傾向にあったため、「ウシマンボウ」の方がより高水温の水域を好んでいる可能性が示唆されました。
また、最近はマンボウと人の関係についても興味を持ち、文献を用いた歴史調査も行っています。マンボウの研究者は幕医の栗本丹洲が「翻車考(まんぼうこう)」(1825年)を書いた江戸時代にまで遡ります。この本は当時のマンボウに関する知見をまとめた漢文で、18ページの冊子の中にマンボウの絵や当時の利用法、西洋の文献に関する情報が書かれています。それによるとマンボウは食用だけでなく、肝油や刀のさやとしても活用されていたことから、当時からマンボウが漁獲されていたことが読みとれます。想像で書かれているところもありますが、当時の知見としてとても興味深いですね。
実際のフィールド調査では、通常の漁業に同行する形で漁師と一緒に朝2時に港を出航し、仕掛けておいた定置網の引き上げに加わります。1tレベルのマンボウを獲るのはとても大変ですし、日によって獲れる日や獲れない日もあります。データを取った後のマンボウは皆で食べますが、あまりに大きすぎて廃棄することも多々ありました。身が腐りやすいため、なかなか都市部では出回りにくいマンボウですが、刺身はイカ刺しを薄くしたような味で、ゆでると鶏のささみのような食感になります。
現在日本でマンボウについて研究している人はほとんどいません。マンボウは非常に巨体であるため、数を集めてデータを取るだけでもコストがかかります。未知の部分が多いにも関わらずフィールド調査が難しいため、研究者が少ないのが現状です。また、標本の保存も難しく、マンボウ類の2.5m以上の大型標本がある施設は全国に4館のみです。それだけ扱いが難しく大変な研究ですが、マンボウの生態を解明する上でとても意義のあることだと思います。
将来、マンボウについての魅力を発信できる場、できればマンボウ博物館を作りたいです。これまでは日本近海のマンボウの研究を行ってきましたが、南半球のマンボウの種類や生態についての研究は少なく、開拓していければと思っています。本コンソーシアム事業の長期インターンシップで今年5月から2か月間、ニュージーランド国立テパパ博物館に行く機会を得たので、そこで、マンボウ標本の形態的な調査を行う予定です。また、現地でのマンボウとの人との関わり、文化についてもぜひ調査してみたいです。
幼少期からマンボウに魅せられて今まで研究してきましたが、マンボウへの興味は尽きません。もっとマンボウの基礎的な部分について明らかにしたい、マンボウ属以外のマンボウ※についてもフィールドを広げて基礎研究を行っていきたいと思っています。「ウシマンボウ」がいつから存在しているのか歴史的な側面についても調査したいですね。
また、今までに研究について何度か取材を受けましたが、メディアを通してしまうとどうしても自分の言いたいことが上手く伝わらないことがあります。そのため、自分の言葉で一般の人と直接向き合って伝えたいと思っています。現在魅力を伝える活動の一環として、グッズの制作・販売もしています。水族館での講演会や物販といった、コラボもぜひやってみたいですね。
※マンボウ科にはマンボウ属、ヤリマンボウ属、クサビフグ属がある。
取材担当:勝池有紗(広島大学 大学院教育学研究科 生涯活動教育学専攻 博士課程前期2年)