広島大学学術院 助教(大学院先端物質科学研究科)水川友里 先生

No.20 好奇心を持ち、他分野との融合を探求する


 
広島大学学術院 助教(大学院先端物質科学研究科)
水川 友里 先生




 
専門分野:
・応用物理学 / プラズマエレクトロニクス
・応用物理学 / 薄膜・表面界面物性
・ナノ・マイクロ科学 / ナノバイオサイエンス
経歴:
2014年03月 千葉大学大学院工学研究科人工システム科学専攻博士課程前期修了
2016年03月 広島大学大学院先端物質科学研究科半導体集積科学専攻博士課程後期修了
2014年04月 日本学術振興会, 特別研究員DC1
2016年04月 日本学術振興会, 特別研究員PD
2017年03月 広島大学, 大学院先端物質科学研究科, 助教

 今回、大学院先端物質科学研究科半導体集積科学講座 量子半導体工学研究室の水川友里助教にお話を伺いました。水川先生は幅広い研究分野で活躍されています。現在主軸にしている大気圧熱プラズマジェット照射によるアモルファスシリコン(a-Si)の結晶化の研究をしつつ、過去取り組んだ医療工学研究と将来的には結び付けられるようにも考えられています。今回のインタビューでは、水川先生に、多領域の研究内容について紹介していただきました。

◯ 現在の研究

 現在、薄膜トランジスタを作成する際に使われている大気圧熱プラズマジェットというa-Si多結晶化のための急速熱処理技術についての研究に取り組んでいます。
 トランジスタは電気の流れをせき止めたり流したりすることにより、パソコンやスマートフォン内部を流れる電流のオンオフをコントロールできるスイッチのようなものです。薄膜トランジスタは名前通り通常のトランジスタを薄型化したもので、スマートフォンや液晶ディスプレイ等の大画面化・薄型化のためには、薄膜トランジスタの性能向上が不可欠です。大気圧熱プラズマジェットという技術は、薄膜トランジスタ作製技術として薄いガラス基板上に低温で堆積させたa-Si膜を非常に速く結晶化させることができます。そこで、結晶化のメカニズムを明らかにする必要があるため、ハイスピードカメラで結晶化の様子をリアルタイムで観察し、結晶化過程を解明する研究を行っています。

◯ 現在の研究に至るまで

 最初は半導体分野ではなく、医療工学の分野へ進むことを希望し千葉大学に入学しました。所属研究室では,主に磁場と分光法・顕微観察を用いた生体磁気効果の研究を行っていました。また自分は学部から博士前期まで、骨芽細胞や水圏微生物に磁場ストレスを与えつつ近赤外分光測定によってそのストレス変化を捉える研究をしていました。所属研究室の指導教員が,骨芽細胞が含まれることから魚類ウロコの磁場効果研究を開始し、魚類ウロコの色素細胞内に存在するグアニン結晶と呼ばれる結晶が磁場に反応するという現象を偶然発見しました。このことをきっかけに、博士課程前期の後半から広島大学での博士課程後期に至るまで、その指導教員の下でグアニン結晶の研究を行いました。グアニン結晶という結晶はとても薄くて、細長い六角形の形をした結晶です。この結晶の特徴としては、強い光反射が起こることと磁場に反応して配向現象を生じることが挙げられます。これらのことから、グアニン結晶への光入射方向と磁場方向を組み替えることによって、光反射の方向制御ができるということを見出しました。
 しかし、この期間は、葛藤の多い時期でもあり、元々専攻したかった医療工学研究から少し遠退いたことで研究のモチベーションが下がってしまうこともありました。幸い、指導教員から、半導体のMEMS技術などにも応用できるという貴重なアドバイスを頂き、自分の発想では至らなかった意見を頂いたことで大きく視野を広げることができました。
 元々専攻したかった分野からは少し離れてしまいましたが、異なる分野でも吸収できることはたくさんあり、今後の研究に反映させていくということはできるはずです。半導体分野に入ったばかりの自分には、これから吸収しないといけないことがたくさんあります。この分野で一人前になることができたら、医療工学研究と融合させた研究を進められたら良いなと考えています。

  
左写真:大気圧熱プラズマジェットの点火の様子/右写真:結晶化過程観察のための実験系

◯ 学生生活

 中学・高校時代は普通の学生でしたが、一つのことについて調査するのが得意で理科が好きでした。医者の伝記本に触発されたことがきっかけで、医療分野に興味を持ち、大学進学の際は医療工学分野を目指しました。
 大学四年生に入ってから研究に携わるようになりました。研究が立て込み、かなり無理を重ねてしまった時期もありました。その時、「そこまで無理してはいけない」、「必ず休息を取るようにすることは大事だ」、などのことを学びました。

◯ 留学生活

 一度海外留学をしてみたいという考えは初めて国際学会参加を果たした時からありました。海外での研究に興味があり、また現地で英語力を鍛えたいためでした。
学部4年生の時に、初めて国際発表に参加しました。何百件ものポスターが並べられ、口頭発表も何部屋にも分かれて行われていた国際学会に参加し、「こんな研究も海外ではある」、「もっと知りたい」と、とても刺激を受けました。それから博士号を取った後に短期で海外に行くチャンスがあり、イギリスのヨーク大学に8ヶ月留学することができました。
 海外に行ったからと言って英語力が上がるわけではなく、日常的に常に練習と意識して会話・勉強する必要がありました。その中でも、違う文化圏で人と交流でき、研究生活・日常生活を送れたことはとても貴重な経験になりました。ヨーク大学での留学期間は短かったですが、今後、海外で研究できる機会を得られることがあれば、また行きたいと考えています。

◯ 教員になってから初めてわかったこと

 やはり教員として責任を負っているということです。私たちの研究室では、特殊高圧ガスなどの危険ガスを扱っているため、しっかり予備知識を持って扱わないと大きな事故に結びつきます。事故が起きないよう定期的なメンテナンスがとても重要で、装置に関する小さな報告に対しても研究室全体で常に注意しています。

◯ 研究者としての心得

 私は研究に携わるようになった時にお世話になった先生から頂いた言葉が今でも印象に残っています。「研究者は狩人であり、いまここ逃したらいけないと思ったら、とことん突き詰めて研究すべき」という言葉です。狙い時だと思った時に、絶対に逃さずに集中して追い続けるという根性と粘り強さは、大事だと考えています。
 また自分の分野外にもアンテナを張るようにしています。過去の経験から、この分野はあまり関係がないからと意識が向かないと、研究のブレイクスルーを果たす際の発想力・突破口となる情報の引き出しが少なくなると思います。なので時間がある時は分野に囚われないように本やニュースを少し見たり、学会でも他分野のセッションも見に行くようにしています。好奇心を持って情報の網を張ることで、思わぬ発想が生まれると考えています。

◯ 研究者を目指す学生に一言

 学生のうちしかできないこと、社会人になってからではできないことがあり、その中の一つは長期旅行ですね。学生の皆さんには、積極的に海外に出かけて欲しいです。自身の度胸と積極性を高め、人間的にも大きく成長できると思います。交換留学生プログラムのような海外に行くチャンスは多く、大学側の補助が手厚いので、ぜひ挑戦してみて欲しいです。
あと、研究のスケジューリングや時間配分のバランスは重要だと思います。「休む時には休み、頑張るときにはしっかり頑張る」を心がけ、研究と私生活の両方を楽しんで欲しいと思います。

 

◯ 取材者の感想

 今回取材させていただいた水川先生は、研究の原動力は「好奇心」だとおっしゃいました。取材者の私にとっては強く印象に残りました。そうしたわくわくするような瞬間が訪れる日が来ることを信じながら、日々努力していくのは研究の醍醐味なのではないかと思いました。自分は博士課程後期の学生として、研究に携わる日々の中、毎日すべきことをついつい機械的にこなすだけになりがちでしたが、先生の話を伺い、これからの研究でも常に好奇心を忘れないよう、心がけていきたいと思いました。

取材担当:楊 嘉寧(広島大学 教育学研究科 博士課程後期2年)