広島大学 特別研究員
宮良 政嗣 さん
専門分野:神経毒性学
履歴:
平成24年4月~28年3月 広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 医歯薬学専攻 博士課程(博士(薬学))
平成28年4月~ 広島大学特別研究員(グローバルキャリアデザインセンター)
パーキンソン病とは脳内部の中脳という場所に存在するドーパミン(神経の信号を伝える伝達物質)産生細胞が何らかの原因で特異的に死滅して引き起こされる運動機能障害を主症状とする神経疾患です。ドーパミンが不足することで、脳からの運動信号が十分に伝わらず手足の震えやこわばり、動作が緩慢になるなどの運動機能障害が発症します。この病気は1,000人に1人の確率で発症するといわれ、国内で10万人以上の患者がいます。また、パーキンソン病発症は加齢と深い関係があるといわれており、今後高齢化が進む日本社会において患者数がさらに増加すると予想されています。
ドーパミン細胞がなぜ死滅するのかといったメカニズムが明らかになっていないため、主な治療法は、症状の改善や、病気の進行を遅らせる対処療法しかありません。具体的には、不足したドーパミンを補う薬物治療や脳に電極を埋め込む脳手術などが行われています。しかし、これらの治療法は副作用や身体的な負担が大きい、治療効果に個人差があるなどが課題とされています。
ドーパミン神経細胞の死滅が細胞内の浄化作用を担うオートファジー(注1)の機能低下によるためではないかと仮説を立て研究を進めています。実験では、パーキンソン病類似の症状を引き起こす化学物質を用い、オートファジーの変化を観察します。
研究を進めている中で、オートファジーの機能不全が引き起こされる原因が細胞小器官であるリソソームと関連性があることが明らかになってきました。今後は、オートファジーやリソソームとパーキンソン病発症メカニズムとの関係を明らかにして、病気の発症を抑える治療方法発見に貢献していきます。
2016年12月19日に開催された大塚製薬株式会社の企業見学バスツアーに参加しました。プログラムでは、会社説明や研究所見学だけではなく、現在の研究内容発表、さらに企業の研究者と直接話せるディスカッションの時間が設けられており、普段あまり接する機会の無い企業の研究者に対して普段抱えている研究の疑問などを積極的に質問しました。今回の経験を通じて製薬会社に対する知識が深められただけではなく、すぐに研究に応用できる新しい考え方や視点などを学ぶことができました。将来的には、製薬会社と共同研究が行えるような研究結果を出せるように研究を続けていきたいと思いました。
ご存知の通り、オートファジー研究は、2016年に東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏がノーベル医学・生理学賞を受賞し、近年盛り上がりのある分野です。最先端の研究が世界中で行われているため、日々新しい発見が報告されています。そのため、新発見だと思っても、すでに他の研究者が論文を提出して報告していることがよくあります。修士課程の時に細胞骨格をテーマに研究を始めてから、細胞の染色、空胞、オートファジーとターゲットが絞られてくる中で、すごいところ(研究分野)に入ってしまったという実感がありますが、最前線分野でいかに自分のオリジナリティーで戦うか、世界中の優秀な研究者と肩を並べていきたいと思います。
そんな中、2016年に開催された第38回日本生物学的精神医学会・第59回日本神経化学会大会合同年会にて優秀発表賞を受賞しました。現在行っている研究を高く評価していただいたので、自信につながり、今後も踏ん張って研究を続けていきたいと考えています。
そのためには、幅広いアンテナをもって、いろいろなことにチャレンジしていきたいと思います。
注1:オートファジー
細胞内のタンパク質を分解するための仕組みで、タンパク質を分解し生命維持に必要なアミノ酸などの栄養素を作り出します。また、この機能は細胞内の浄化機能も担っており、細胞内をきれいに保つために必要です。しかし、オートファジーの機能不全によって細胞内の不要なタンパク質が正常に分解されず、蓄積することで、最終的に神経細胞が死滅すると考えられています。
注2:引用元
広島大学薬学部/大学院医歯薬保健学研究院 生体機能分子動態学研究室 ホームページ
< http://home.hiroshima-u.ac.jp/ohtalab/policy.html >
取材担当:服部 拓磨(広島大学 大学院国際協力研究科 教育文化専攻 博士課程前期1年)