広島大学 特別研究員 重藤 元 さん

No.12 「糖尿病治療薬開発の効率化を目指して」

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広島大学 特別研究員
重藤 元 さん


 
専門分野:細胞生物学
履歴:
2012年~  広島大学サステナブル・ディベロプメント実践研究センター 支援研究員
2015年   広島大学大学院先端物質科学研究科分子生命機能科学専攻 博士課程後期修了 博士(工学)
2015年~  広島大学特別研究員(グローバルキャリアデザインセンター)

◯ 効率的な治療薬開発のために

  食事をすると血液中の血糖値が上がり、それをすい臓の細胞が検知し、インスリンを分泌します。糖尿病とは、このインスリンの分泌や働きがうまく行われないために、血糖値が高くなっている状態のことで、放置するとさまざまな合併症を引き起こします。糖尿病患者数は全世界で3億人を超え、日本でも糖尿病予備軍を合わせると2000万人以上と推測されています。このため、糖尿病治療薬を開発しようとする研究は盛んに行われています。しかし、新薬の開発には、新規物質の創生、動物実験、人を対象とする臨床試験や規制当局による承認審査により10年以上の年月がかかると言われています。
 私は、動物実験の前段階である動物細胞の応答反応を効率的に評価するためのスクリーニングを行うデバイスの開発をしています。

◯ プローブと細胞評価デバイスの開発 ―謎の多い細胞のメカニズムを追う

  実は、学部4年時から修士課程にかけては、糖尿病の再生医療、つまり、ES細胞からインスリン分泌細胞を作り、生体に移植する研究をしていました。ある程度使える細胞ができましたが、どれくらい血糖値の改善があるのか、生体に移植した細胞がどのように働いているのかなどを、評価する方法がないということにジレンマを感じていました。
  そこで、博士課程からテーマを「評価」にシフトチェンジし、現在に至っています。
 
  私の開発しているプローブ(探査針)は、抗体や受容体等のように測定対象と結合する「認識部位」と、抗体(または受容体)と標的の物質が結合したことを知らせる「シグナル発生部位」から成るバイオセンシング技術を用いています。この技術を用いて、刺激に対する細胞の分泌応答や遺伝子発現応答を連続測定する手法の開発を行っています。
 
  このようなshigeto_2手法のメリットは、第一に、非常に効率的で労力がかからないという点があります。細胞に薬を投与し、プローブで混ぜるだけで、サンプルの回収をせず、細胞の分泌応答を測定、可視化することが可能です。第二に、細胞の応答を連続測定することが可能です。従来の分泌応答の測定手法(ELISA法など)だと、刺激を与えた後の培地を回収し、解析を行う必要があります。さらに解析の際は、標的と結合した抗体だけでなく、結合しなかった抗体もシグナルを発してしまうため、通常は結合した抗体のみを残し結合しなかった抗体を洗浄する作業を挟みます。しかし、このような手法だと、サンプルを回収した時点では分泌を行っていない細胞でも、その後分泌応答を示す可能性があるにもかかわらず、その観察を継続することができないという問題があります。さらに測定に手間と時間がかかることから、大量のサンプルを用いた解析は困難です。一方、私の開発しているプローブを用いた検査だと、結合したプローブと結合しなかったプローブが発するシグナルは波長が異なるため、サンプルの回収や洗浄操作をする必要がなく、連続測定が可能という点で、とても優れていると言えます。
 
  ただ、細胞によって個体差があり、その応答も異なるため、かなりの数の細胞を長時間モニタリングしなければなりません。細胞の分泌応答の解析実験は30分から1時間連続解析を行い、細胞の遺伝子発現応答の解析には、6時間程度の連続観察を行っています。条件の良い細胞を6時間測っている間に顕微鏡の画面の外に行ってしまうこともあり、うまくデータを取れないことも多々あります。また、1週間に2、3回、実験に使用するための細胞の植え替えを行う必要があり、他のどんな予定よりも、細胞の管理が最優先で、根気のいる作業がほとんどです。

◯ いかに「ものづくり」として確立していくか

  薬を効果的に使う、shigeto_3と同時に危険を減らすためにも、細胞の反応メカニズムを明らかにすることは重要です。
  これまでは細胞ベースの実験の中で正確に測定することを焦点に当ててきましたが、将来的には、マウスなどの個体レベルで生きたまま測定できるようなデバイスを作っていけたら、と思っています。また、使用者のことを考えた「ものづくり」としていかに確立していくかが課題だと思っています。そのためにも、色々なところにいって経験を積みたいです。大学だけではなく、国内外の研究所などにもチャレンジしたいですね。

取材担当:田崎 優里(広島大学 大学院教育学研究科 心理学専攻 博士課程前期2年)